某海外サービスの定性調査に参加してみた

先日、海外の某有名webサービスの定性調査に被験者として参加してきました。ユーザビリティテストではなく、ブランディングを目的としたインタビューです。そこで実施された調査手法について興味深かったので、今回はそのことについて書いてみます。

きっかけ

参加のきっかけはこのサービスのアンケートメールでした。普段どのようにツールを利用しているのかを答えるアンケートの最後に、都内で実施するインタビューに協力してくれるか?との問いがあったのでOKを選択し、その後参加依頼のメールが来ました。5年ほど使い続けてるツールサービスということもありましたが、海外サービスがどのように調査を行っているのかとても興味があったので、迷わず参加の意思を表明。
この調査では、事前課題があったり、ツールの使い方や新しいツールの導入で困った経験、有料版購入や利用継続にあたっての障壁をインタビューで深掘りをされました。これらの調査を受けてみて個人的に興味深かったことを挙げてみます。

  • フォーカスグループ
  • コラージュの事前課題
  • 「○」と「ー」で評価する共感調査手法

フォーカスグループ

この調査はグループインタビューだったので私の他に2人の被験者が同じ時間帯に参加していました。自己紹介の内容を聞いているとどうやら3人ともwebサービスの開発に携わる人間のようです。
このサービスを利用するのが、ものづくり系の人間ばかりなのか、それともこの時間帯のグループだけそういう人間を集めたのか分かりませんが、なんらかの属性でリクルーティングされたのは確かです。
他の被験者の話を聞いていて興味深かったのは、サービス利用が割と外部要因により利用が左右されること。本人がそれを良いと思っていても、仕事場では利用を禁止されてたり、逆に周りが使ってるから使わざるを得なかったり、職場が変わったことでアカウントを使い分ける必要が出たり。ユーザーにそのサービスを使い続けてもらうためには、そういった様々な利用状況を把握することが必要なんだなと改めて痛感しました。ユーザー個人による使われ方よりも、そのユーザーをとりまく環境とコンテキストの理解が必要不可欠なんだと。
他のグループではどんな会話がされていたのか気になります。

コラージュの事前課題

先にも書きましたが、この調査には事前課題がありました。提示されたテーマに対して思い浮かぶイメージを貼り付けてシートを完成させるという課題です(実際は↑の画像のようなおしゃれでかわいいかんじではなく、パワポにイメージと単語を並べる程度です笑)。これは「コラージュ法」という定性調査手法の1つで、言葉だけでは表現できないユーザーの深層心理を視覚化し、潜在的な課題や欲求を探るものです。実際にこの手法を実施している調査を見るのは初めてだったのでだいぶ興味深いものでした。そのテーマに対して抱くメージ・感情を、自分の経験(ストーリー)をベースに表現するよう指示されました。被験者3人がそれぞれ述べていき、最終的にモデレーターが3人の意見をまとめていくようなファシリテーションでした。

この手法に関してひとつ感じたのは、事前課題で実施するのが適切だということ。というのもインタビュー当日に現場でこれをユーザーにやらせるというのは現実的ではないからです。昔読んだ定性調査の書籍には「コラージュ法」の紹介として、部屋の壁いっぱいに貼られた沢山の写真の中からテーマに沿うものを選んでシートを完成させる写真が掲載されていましたが、実施するには広い部屋と膨大なイメージ写真、そしてそこからイメージをユーザーに選ばせる十分な時間の確保が必要で、実施コストが高そうでした。もう1つの理由は適切な結果が得られないこと。部屋に貼り出せるイメージの数というのは上限があるので、被験者の深層心理を表現するには不十分だと考えられます。PCとプリンターを置いて検索・印刷させるといった工夫もできますが、探して/印刷して/切って/貼り付けての作業時間が必要になります。これらの点を考えると、コラージュを事前課題として実施したのは正解だなと感じました。実際当日のインタビューではそのコラージュの深掘りするだけで済んでいます。

「○」と「ー」で評価する共感調査手法

インタビューの後半では、新しいプロモーションムービーがディスプレイで流され、受け取った印象を聞かれました。
ムービーのクオリティーが高かったので、恐らく大規模なプロモーション活動の方向性を確かめるために調査をしたのでしょう。調査結果を受けて更に軌道修正することを想定すると、多額の予算をかけていることが分かります。
その後、A4用紙に印刷された制作側のメッセージやコンセプト文を読んで、共感するワードや文章に「○」を、共感できない部分には打ち消し線「ー」を書き入れ、理由を聞かれました。
面白かったのは、この「○」「ー」を入れて共感を評価する手法です。コンセプト上で使われているワードや表現に印を入れることで、良い部分と悪い部分が明確になり、評価しやすくなります。また、理由をを掘り下げることで、ブランドコンセプトやワーディングの軌道修正も容易になるとも感じました。被験者ごとに受け取り方は異なるため、誰かが共感する表現でも、別の人には「作為的でらしくない」などの意見が出ます。実際、ブランド生まれ変わらせたいという勢いは感じたのですが、使われている言葉が壮大すぎて上から目線に聞こえたりするなどちょっとひいてしまう部分がありました。
ブランドデザインというのは、言葉の意味にとらわれて本当の姿を探っていくことが難しいと考えていましたが、
こういった調査はとても有用だと感じました。具体的なアウトプット(ムービーやコンセプト文)を提示し、反応と理由を深ぼることで、ユーザーが受け止められる許容幅というのが見えてきやすいのかもしれません。サービスの拡大を目指すあまり、ブランドに無理をさせてしまうとこれまで利用してくれていたユーザーが離れていく恐れがあります。ましてやロイヤルユーザーに長く使ってもらうことを重視したサービスであればあるほどそこは慎重にならざるを得ません。
伝えたいメッセージに対して共感できるか。そしてそれを表現するワードが適切かどうか。プロモーションをする上では人の心を瞬時に掴まないといけないワケですから、そこにお金をかけるのも納得がいきます。ましてやグローバル会社だとそうですよね。

まとめ

共感と信頼性を生み出すブランドをデザインをしていくのはサービスの拡大を目指すには非常に重要なのだと感じました。海外の有名サービスということもありなかなか良い学びになりました。私はいまスタートアップのサービス開発に携わっていますが、サービスブランディングという点に関してはほとんど無知なので、これを機に意識していきたいとも思いました。